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その言葉どおり。
次の日には彼は来なかった。
桜が散りきるまでは毎日来てたのに。
なんだか寂しいような、裏切られたような複雑な気持ちのなか、私はいつものように桜を見上げていた。
「あの、すみません」
不意に声をかけられる。
それは彼じゃなく、中年の女性。
女性は紫の包みを胸に抱えたまま、私を見つめている。
「…はい?」
「ああ、やっぱりあなたね。
もしかしてここで毎年春に、若い男の子が来ませんでしたか?」
女性の不思議な質問に私は内心怪しみながらも、こくんと縦に首をふる。
「ああ、やっぱり。
あの子の言った通りなんだわ」
女性は涙声で呟くと、持っていたハンカチでそっと目頭を押さえる。
「実はこれをあなたに渡したくて。
受け取ってもらえますか?」
そういいながら、女性は私に紫の包みを差し出した。
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