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私は包みを膝の上におくと、それをゆっくりと開いてみる。
それは何冊かのスケッチブックだった。
「最初は何を言ってるかと思ったんですよ。
毎年ここの桜の絵を書いて、そしてあなたに会ってる、なんて言うもんですから」
意味がわからず、私はそのスケッチブックを開いてみる。
そこには美しい、薄紅色に描かれた、桜
、桜、桜。
同じ木の筈なのに、毎回毎回印象が違う。
毎年見ていたから間違いない。
それは『彼』の桜だった。
「はじめは薬のせいで現実と夢がごちゃごちゃになっているのかと思ったんですけど。
一番下のスケッチブックの最後のページを見てもらえますか?」
私は女性に促されるままに、一番下にあったスケッチブックを手にとると、その最後のページを開く。
思わず息を飲んで、そのページを見つめた。
そこに描かれていたのは、大きな桜の木の下に座りながら、上を見上げている私のスケッチ。
「不思議でしょう?
あの子はここに来たことも会ったこともない筈なのに、ここにはあなたが書かれているの」
女性はその絵と私を見比べながらそう私に告げた。
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