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「実は…あの子は、重い病気でね。もう何年もずっと病院のベッドの上だったの。
毎日薬との戦いで、最後はほとんど起き上がれない状態だった。
でも、数年前から、不思議な話をしだしたの。
春にここの河川敷の桜の木の下で、知らない女の子の横でいつも絵を書いてると。
まるでそれを思い出すかのように、その話をしたあとはいつもこうして桜のスケッチをしていたのよ。
そして先日、息を引き取る前に書いたのが、あなたの絵でね。
あなたは桜が散りきるまではここにいるだろうから、この絵を渡してくれと最後に頼まれたの。
裏を見てくれる?」
私はそっと、その絵をめくると裏を見てみる。
そこにはやや震える文字で
『ありがとう。きみとの時間が僕のささやかな幸せでした』
と書かれていた。
「はじめからあの子の話を信じていれば、あの子が生きているうちにあなたに会いにこれたのにね。
ごめんなさい。遅くなってしまって。
そしてあの子と過ごしてくれて、本当にありがとう」
女性は私に向かって深々と頭を下げた。
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