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ラストスクエア
「 ア ソ ボ ウ ヨ !」
抑揚の少ない音声でそう言うのは人型に変型する観覧車、ワンダーウィール。
ワンダーウィールはミズ・ドービーが作った最高傑作の「娯楽」だった。
人を楽しませるために作ったはずなのに、どうしてこんな風になってしまったんだろう。
ワンダーウィールの手の中で熟れたトマトのように握りつぶされた子供を見ながら、ミズ・ドービーはただ後悔していた。
同時に、自分のすべきことを考えていた。
泣き叫ぶ母親らしき女性の手を引き逃げようとしても、彼女は頑なにその場を離れようとしない。
そうこうしているうちに、彼女もまた『娯楽』に握りつぶされてしまった。
握りつぶした塊を口の中に放り込んで、『娯楽』はこちらに視線を移した。
粘り気の強い血液が、濃い匂いとともに降って来る。
「ア ソ ブ ノ ト ッ テ モ タ ノ シ イ ネ !」
その姿に圧倒されて声も出ず、足も震えて動かない。
「博士!撤退します!」
同じ研究所職員の怒号が飛ぶ。その声にはっとし、ミズ・ドービーは自分のやるべきことを思い出した。
自分はここで終わってはいけない。
私の作った『娯楽』たちは、義務を遂行しているだけ。
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