三日月

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三日月

(今、けぇってきたぜぇ!) (あら、お前さん、お仕事お疲れ様。もう風呂は沸いていますわ) (うん。ひとっ風呂浴びたら、今夜も晩酌って洒落こもうじゃないか) (今夜は、お前さんが好きな牛鍋だわ) はっ!起きたら布団の中だった。彼は夢を見てたのである。夢にまで出てくる(やまもと)さんって何て罪なお人なんだろう。 事物の道理を究めれば知性が隅々まで働き、思いが誠実になり心が安定する。身は修まり修まり言動が正しくなる。家庭は円満になり国はよく治まる。そして天下がおのずと安定するのだ。 知性よ野性。天びんにかけると人は野性に生きる。そこで西洋人は法律を定めた。しかし東洋では自分自身を律するのでいらぬと考えてきた。しかし西洋も東洋も恋ということは、昔と変わらない。もどかしくて、愛しくて、好きな人のためなら何でもする。色恋で身を崩すとはよくいったものだがそれは法律では裁けるが心までも裁けない。 天子から庶民にいたるまですべて我が身を修める事を根本とする。我が身も修められないのに天下を治めようなどというのは所詮無理な話だ。家をほったらかしで国や天下がよく治まった例などありえない。 (やまもと)さん。僕は君の為なら何だってするぜぇ!この命に変えても今日の夜空の三日月が先がとんがっているのは、きっと君が僕の心に恋という名のとがった先でちくちく刺しているのだろう。
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