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プロローグ ベランダの夜桜
-桜の木の下には、死体が埋まっている-
そんなことを言い始めるのは、儚いものに美を見出す日本人の習性なのだろうか・・・
何百年と樹齢を経た桜の古木を見たとき、当時小学生だった私の幼心にも、なんとなくそんな迷信が噂されるのは頷けるような気がした。
そう、あれはまだ、私が小学生だった頃の話だ。
今、大人になって家を出た私は、一人マンションのベランダでグラスを片手に夜空を見上げている。
カラン。
グラスの中の氷が解けて動いた。
アルコールで体が温まるとは言え、長袖のTシャツ一枚にブランケットを羽織っただけの格好をして4月初頭の夜更けに外でウイスキーを煽るのはちょっとまだ寒い。
左手に目を遣ると、少し離れて迫り出した山肌に、山桜の枝がつぼみを付けていた。咲きかかっている枝もある。
そうだ、今日はあの日と同じ満月だ。青く透けるように憂いを帯びた満月の光が膨らんだつぼみを照らし出し、幻想的な影を浮かび上がらせている。
今頃、どうしているかな・・・
望月沙紀は一人呟いて、気が付けば遠い日の思い出を手繰り寄せていた。
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