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瞬間、呼吸が止まった。思わず手を離しそうになり、慌てて息を吸い込む。見間違いかと思ってもう一度確認するが、やはり丁寧な字で風花シアンと書かれていた。
ひとまずリビングまで戻り、テーブルの上に新聞を置いた。幽霊から手紙が来たのかと一瞬焦ったが、どうやらそうではないらしい。
椅子に座った僕は、封筒を破らないように、そっと封を切った。幸い封筒は軽く糊付けしてあっただけなので、簡単に開いた。中に入っていたのは、便箋三枚と線香花火一本。花火からはまだ、夏の香りが微かに漂っていた。
彼女は一体、僕に何を伝えたかったのか。たった四枚、軽いはずの便箋が、ずっしりと重く感じた。
ゆっくりと便箋を開く。そこには、シアンの丁寧な字がびっしりと並んでいた。僕は恐る恐る、その文字を目で追っていった。
『左雨ハイト君へ
こんばんは。花火の余韻に浸りながら、この手紙を書いてます。あっ、でも、もしかしたら、そっちはこんにちはかもしれないし、おはようかもしれないね。まあ、そんなことはどうでもいいか。ハイト君、お元気ですか? もう夏休みは終わっちゃったのかな。
私がこんなふうに手紙を書こうと思ったのは、たぶん初めてだと思います。小学校の頃は、よく手紙を交換して遊んでたよね。懐かしいなぁ。
書きたいことを全部書いてたら便箋が何枚あっても足りなくなっちゃうから、本題に入るね。
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