線香花火

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実を言うと、ハイト君と一緒にいる時だけは、未来が不確かでわくわくしたの。どうしてか分からないけど、ハイト君の未来だけはどうしても見えなかった。でもね、未来が見えるって退屈なことなんだよ。同じ映画を連続で見てるみたいにね。だけど、ハイト君の答えはいつも私の予想を裏切ってくれる。だからいつも、私は楽しかったんだよ。 あと、身勝手なお願いだと思うけど、私が死んでも悲しまないでほしい。私は、ちゃんと幸せだから。誰が何と言おうと、これ以上ないくらい幸せなの。 それとね、今日の線香花火、こっそり持って帰ってきちゃった。夏の思い出を全部燃やしちゃうのはもったいない気がしたから。だからハイト君にも、思い出のお裾分けだよ。 最後になっちゃったけど、今日は本当にありがとう。バイバイ。                風花シアン』  手紙はそこで終わっていた。 読み終わると同時に視界が滲み、ぽたり、と手紙に水滴が落ちる。雨が降ってきたのかと思って上を見上げたが、見慣れた天井が映るだけだ。まさかと思って目元を拭うと、涙で濡れている。それを認識した途端、僕の中で、何かがぷっつりと切れるような音が響いた。  涙が止めどなく零れ落ちる。拭っても拭っても、涙は一向に止まらない。まるで、この一週間分の涙が一気に流れ出しているかのようだ。泣けば泣くほど、胸が苦しくなっていく。泣いても泣いても、楽になんかならなかった。     
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