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最後に一つだけ、やらなければならないことがある。持って帰って来てしまった線香花火に目を落とし、私は少し寂しくなった。
「……花火、綺麗だったなぁ」
ぽつりと呟き、線香花火に仕掛けを施す。気付いてほしいな、なんて乙女チックなことを思いながら。
丁寧に封をして、机の上に置く。手紙を出すのは明日。手紙はきっと出せるだろう。
私はベッドに横たわった。見慣れた天井が目に映ったが、それを見るのも明日が最後だと思うと、新鮮に映った。
そっと目を閉じる。どんな夢を見るのだろうか。自分の未来は見飽きたから、できれば彼の未来を見てみたい。どうしても見えない、彼の未来を。
そんなことを思いながら、私は眠りに落ちていった。
翌朝、私は手紙を出すために郵便局へ向かった。家を出る前に母親に、
「いつもありがとう」
と伝えると、彼女は戸惑いながらも喜んでくれた。
これでいい。あとは手紙を出せば、私は満足だ。
高速で移動する車の群れに気を付けながら、ゆったりと進んでいく。人混みを避けるために回り道をしていたら、郵便局に着くまでに、随分と時間がかかってしまった。
分かっていたことでも、ちゃんとたどり着けたことに内心ほっとする。私は持ってきた手紙を、目の前の少し赤色が剥げたポストに丁寧に投函した。
――ちゃんと、彼に届きますように。
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