線香花火

19/21
前へ
/21ページ
次へ
 ポストに入れれば必ず届くはずだが、何となくそう願いたくなった。もちろん、ポストの目の前で手を合わせたりすれば、確実におかしな子なので、私は心の中でそっと手を合わせておいた。  これで、私の仕事は終わった。手紙は――私の気持ちは、ちゃんと彼に届く。そう信じることにする。  私は踵を返し、郵便局を後にした。外は蒸し暑く、太陽は日焼け止めを塗っていてもじりじりと容赦なく肌を焼いてくる。昨日は元気に鳴いていた蝉達の声も、今日はあまり聞こえてこなかった。きっと、夏が終わりかけているのだろう。大好きな季節が終わる前に結末を迎えることができる私は、もしかすると幸せ者なのかもしれない。いや、幸せ者だ。好きな人と、最終日の一日前を過ごすことができたんだ。どんな結末を迎えても、悔いはない。  行きと同じ道を通り、自分の家を目指す。しばらくすると、避けては通れない交差点が見えてきた。  信号は赤色。私はゆったりと余裕を持って歩く。そして、行儀よく横断歩道の前で止まり、信号が青色に変わるのを静かに待った。  ここの信号は変わるまでの時間が長い。だから、我慢できない人がたまに赤信号なのに飛び出していくことがある。  背後から、誰かが勢い良く走ってくる。その人物はろくに周りも見ずに、横断歩道に飛び出していった。     
/21ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加