線香花火

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 西に傾いた太陽が、昼間よりも柔らかい日差しを二人だけの教室に投げ掛けている。昼間はうるさく鳴いていたはずの蝉の声も、すっかり鳴りを潜めていた。今は夏休みだが、僕・左雨(ささめ)ハイトは自主的に学校に来て、少しだけ残っていた課題を黙々と片付けていた。教室にはエアコンが設置されているが、さすがに直射日光を浴びていれば熱く感じる。 「ねえ、ハイト君」  突然澄んだ声に名前を呼ばれ、僕はのろのろと顔を上げた。 「何?」  目の前にいるのは、一人の少女。椅子を本来の向きとは反対に座り、こちらをじっと覗き込んでくる。 「もし明日死ぬと分かったら、どうする?」  そんな突拍子もない問いを投げて、少女は心底楽しそうににこにこと笑った。彼女の名前は風花(かざはな)シアン。カラス貝のように真っ黒な長髪に、切れ長の瞳。小学校から高校までずっと同じ学校に通っている、所謂幼馴染である。彼女が不思議な質問を突然投げてくるのはいつものことなので、僕はそれほど驚かなかった。驚いたのは、いつもと違い質問が具体的だということ。それだけのことなのに、何か気持ち悪い違和感があった。  課題をする手を止め、僕は首を傾げる。     
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