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そう言うと、彼女は手持ち花火を一本手にとった。先端についている花びらのような紙をためらいなくちぎり、ゆらゆら揺れるろうそくにそっとかざす。途端、シューッ、という音とともにいきおいよく火花が前にふき出し、ぼくは思わず飛びのいた。
「うわっ! それ、ちぎって大丈夫なやつなの?」
驚いてたずねると、シアンは意外そうに目を丸くした。
「これ、ただの余った紙切れだから。ちぎった方が、花火に早く火がつくんだよ」
それは初耳だった。なるほど、余った紙切れなら、ちぎってしまった方がいいだろう。
「知らなかった。シアンは物知りだね」
シアンは、ぼくの知らないことをたくさん知っている。昔からそうだ。
「そんなにたいしたことじゃないけどね。でも、ありがとう」
照れくさそうに笑うシアン。ぼくもつられてにっこりと笑う。そんな会話をしているうちに、花火は燃えつきた。
すると、シアンが花火を四本手にとり、そのうちの二本をぼくに手渡した。
「ほら、ハイトくんも花火持って! いっしょにやろうよ」
にやり、とシアンがいたずらっぽい笑みを浮かべる。ぼくは花火を受け取り、苦笑しながらたずねた。
「二本を一度につけたら、すぐになくならないかな?」
「大丈夫だよ。まだこんなにたくさんあるんだから。それに、花火は豪快に遊んだ方が楽しいんだよ」
自信たっぷりに彼女は言った。その言葉には妙に説得力がある。確かに、豪快な方が楽しいかもしれない。
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