線香花火

9/21
前へ
/21ページ
次へ
 耳をつんざく電子音が部屋の中に響き、僕はそっと瞼を持ち上げる。のろのろと手を伸ばし、目覚まし時計を止めた。何か、楽しい夢を見ていたような気がする。僕はそのまま起き上がることができずに、布団を被ったまま溜息をついた。  ――シアンが、死んだ。  その知らせを受けたのは一週間前のことだ。交通事故だったらしい。ほとんど即死だったそうだ。  不思議なことに涙は出なかった。葬式に行ってシアンの顔を見ても、眠っているように穏やかだった。今にも、 「みんなで揃って何をしてるの?」  とか言って起き出しそうだった。だから僕には、彼女がいなくなってしまったことが信じられなかった。  昨日まで、隣で笑っていたのに。突拍子もない問いを投げ掛けて、好奇心の渦巻く瞳をこちらに向け、僕の答えをじっと待っていたのに。一緒に、花火を見つめていたのに。  彼女の瞳が輝くことは、もうない。彼女が笑うことも、もうない。そう現実を突きつけられているのに、僕はやはり今でも泣くことができなかった。遠い国の出来事のように現実感がないまま、ただただ胸が締め付けられるように痛む。その痛みが何なのか、今の僕には考える余裕がなかった。     
/21ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加