線香花火

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線香花火

何処からか蝉の声が聞こえてきた気がして、僕はふと窓の外に目を向けた。外はすっかり夏色一色に染まり、突き抜けるような青空の中に、綿飴のようにふわふわとした入道雲が浮かんでいる。毎年変わらない、見慣れた夏の風景。  その中に〝彼女〟の笑顔が見えた気がして、僕は何度か目を瞬いた。もちろんそれは錯覚で、いつもの風景の中に〝彼女〟の姿なんてない。分かっているのに、懐かしさと同時に、胸が少しだけ締め付けられる。夏になると、どうしても思い出してしまう、いつまでも色褪せない記憶。 これはそんな、一人の少女の物語だ。   
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