終わり

1/1
4人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ

終わり

 魔法を使えない人間に価値はない。…その事実は、俺が物心ついた頃には既に常識として定着していた。しかし、幼少の頃は他人事のように感じていたソレは、徐々に自分の事となって襲い掛かってくる。……気づいてしまったのだ。  ――――――俺は魔法を使えないのではなく、そもそも魔力ひとつ練る事の出来ない、この世に必要のない人間なんだと。  ……この世界に魔法はなくてはならない存在であり、様々な超常(ファンタジー)と共生するために、周りの小さな事から仕事に至るまで、日々を構成する要素の一つとして、ソレは存在し続けていた。…魔法を扱えない、あるいは魔力を練ることが出来ない、なんていうあり得ない(イレギュラー)には、権利も何も与えぬままに。 「ははっ」  自然と乾いた笑いがこぼれる。…思えば、ここでの生活はロクなものではなかった。町に出ればゴミ同然に扱われ、仕事を探しに行けば建物を追い出され……。毎日、毎日、毎日……死ぬのだけは嫌で、まともな手段では金ひとつ稼ぐことが出来なくて、だから、飲食店のゴミ捨て場の中身やその辺にいる食べれそうな動物なんかを胃に入れて、そうやってどうにか生きてきた。  ……本当に、ただ生きていただけだ。俺は何もしていない。…生きているのか、死んでいるのか、その辺の感覚も最近麻痺してきて、それで―――――― 「―――死のう」  幸い、幼い頃に両親には愛想を尽かされて家を追い出されていたし、悲しむ人なんかこの世に一人もいない。…気楽なものだ。生きてるかどうかあやふやな、ただただ苦しいだけだった毎日を、なんの後ろめたさもないままに終わらせることが出来る。  ……こうして小さな幸せを感じたのは、物心がついた頃以来だろうか。 「あっ……」  しかし、俺の満たされた心を暴くように、両目から温かいものが零れ落ちる。それは、今まで積み上げたものが全て無駄になることへの絶望なのか、それとも……。 「――――――」  意を決し、俺は小屋の外へ出る。それは、命を絶つためではなく、「死ぬ前に美しい景色が見たい」という、思い付きの小さな願いのためだった。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!