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出会い
外の空気は既に暖かくなり始めていて、もうすっかり暗くなってしまっていた。松明の火がなければ何も見ることが出来なかっただろう。
「――――――」
行先は、実はもう決めてある。ここから北に一キロと離れていない場所に、小さな桜の木がある。…桜の木といえば、町中にある桜並木が立派で美しいが、あそこは人目につきすぎる。最期の瞬間の、その前に見る景色くらいは、せめて周りに邪魔されたくない。
程なくして、俺はその場所へたどり着いた。桜の木にしては小さな、どこか可愛らしい木。…けれど、それでも立派な桃色の花を咲かせるその姿は美しく―――
「――――――あれ?」
誰もいないと思っていたその場所には、しかし既に一名の先客がいた。
長く艶やかな黒い髪に、白く透き通るような肌。目鼻立ちはよく整っていて、何か難しそうな本を読んでいるその姿は、この桜の木の下というシチュエーションも相まって、とても美しい。…あれ?
――――――この闇の中で、本の文字が見えるのだろうか?
「……そこの貴方」
「はっ……はいっ」
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