第1章 傷だらけの天使

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父が自殺する二か月前、母は蒸発した。 元モデルの母は実際の年齢よりずっと若く美しい容姿をしていて、父が稼いだお金で好き放題の贅沢を堪能していた。私はピアノや茶道も習い、都内のお嬢様学校に通っていたけれど、学校ではもっと規模の違う本物のセレブが沢山いた。 そんな中での破産と自殺はセンセーショナルだった。 卒業まであと三か月というところで、みっともない事情で学校を辞めるのは理不尽だと思った。 父の葬儀は病院から紹介を受けた小さな葬儀屋さんの個室でしめやかに挙げた。さすがに母は戻ってくるだろうと思ったけれど、母は結局最後まで帰らなかった。未だにどこにいるのかさえわからない。 父の骨を拾う時、私は一人だった。 真っ白い灰になった父を鉄製のスコップと箒で梳く上げて、用意された桐箱に詰め込むために喉ぼとけ以外の骨を砕いて、隙間なく押し込んだ。そうまでしてかき集めた父の亡骸と私自身が帰る家はもう無くなっていて、代わりに和利さんの父親がリムジンで迎えに来たのだ。 彼は母の元恋人で、若い頃の母そっくりの私を気に入っていると言っていた。 リムジンに乗ったそばから押し倒され、制服の下に滑り込んだ手で処女を奪われた。 夢みたいなシンデレラストーリーだと思う。 父が築いた城よりもずっと豪華な城に招き入れられて、毎夜寵愛されて快楽に目覚めて。 超セレブと同等の高級リムジンに乗って、何食わぬ顔で学校に通い卒業して。 かなり年上の王子様だったけれど、私はとても満足していた。 あれから六年。 色々あった。 エステが終わり、ランチにはオーガニックフレッシュジュースを買って自宅に戻った。 午後三時まで勉強をして、三時半になったら美容室に言ってドレスアップをして、約束の午後六時に指定されたホテルのレストランに一人で向かった。
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