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「…どこよ?何時間で来れるの?」と、ちょっと意地悪を言うと、、
『行けないし、行かないよ。もう終わったんだから』
晴馬ははっきりとそう言った。
彼の中では、もう終わったのだと知った。
胸の奥に鋭い痛みが走り、じわりと肺を広がって行く。
だけど、あの廃人みたいになっていた彼が今どこかで心機一転やり直そうとしているというのなら、応援してあげなくては。
『それに、あんた俺の奉仕痛がってたじゃん。
もう二度とやだって怒ってたじゃん。
3か月も経ってから、今更何わけわかんないこと言ってるの?』
確かに、晴馬の愛撫は乱雑で昔のような繊細さに欠くけど、
私は彼のテクニックじゃなくて肌の匂いや感じてる時の甘い表情を眺めていられることに意味があった。美しい男の官能シーンを心に焼き付けられたことは、とても有難い。
「…晴馬……眠れないのよ!!わかるでしょ?
クスリじゃダメなんだもん!
あんたほど激しく抱いてくれる男なんて、いないのよ!!
今すぐ戻ってきて?
ね?
ちょっとぐらい痛くても良いの。
また、私に晴馬の体温を頂戴。
私を滅茶苦茶にして……」
思わず、そんな泣きすがる女のセリフを言ってしまった。
冗談にしてはリアル過ぎる。
自分にもまだ、彼に泣きすがりたい感情が残っているのだ。
男は懲りたはずなのに、晴馬だけは特別で。
晴馬を困らせてみたくなる。
『無理』
意思の強さが込められたその一言に全てが見えた。
すると、私の中のくすぶっていたもう一人の自分が顔を出す。
『旦那にまた、眠れないって言えば良いじゃん』
「それを言ったところで、あいつは何もしてくれないのよ!!」
とっくに別れてるのに。あの頃、したくてもできなかった別れ話をし始めた。
何も知らない晴馬の声が、さっきよりずっと落ち着いた男の声に変っていく。
『真央さん。
ずっと、ありがとうって言えなくてごめんね?』
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