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「離婚して良かったんじゃないの?
俺から見れば真央さんはあんな男には勿体ないよ」
昏さのない健康的な微笑みを浮かべた晴馬が、そんな素敵なことをさらりと言ってくれた。
「晴馬……」
私の中の特別な気持ちが、彼を求めてしまう。
私がもっとしっかりしていたら彼をこんな笑顔に変えてあげられたかもしれない。
「俺の実家が燃えて両親とも死んだ話は知ってるよな?」
唐突に始まった彼の個人的な話。
あんなに頑なだったのに、そう思うとまた涙が滲んでくる。
「あのすぐ後、俺の18歳の誕生日の直後だった。
妻に……あの子に出会った。
まだ8歳のガキンチョのくせに大人びた子でさ…。
今も昔も俺はあの子に支えて貰ってる。
10年前も、本当は心の中にずっとあの子が居た。
俺は妻と結ばれるために東京で人生修行してたんだって、そう思ってる。
あんたとの関係は、慰めだった。
酷い男だったと思うよ…。
被害者面して真央さんや社長を悪者にして…。
最後の二年間なんて、廃人だったもんな…俺。
何度か、立ち直ってくれって言ってくれてたのに、
ひねくれものになってたから、あんたのことまた不眠症に陥れたりして。
社長にムカついて、あんたを使って復讐してた…。
それは本当に最低でバカなことをしたと思う。
本当にごめんなさい」
晴馬が深々と頭を下げた。
誰かを悪者にしなければ生きられないぐらい苦しんでいたのは、
私も同じだから言い訳なんかなくても解ってる。
不眠症も晴馬との関係に異常なほど依存したことも、
全部晴馬のせいなんかじゃない。
だから、謝らないで。
だけど、せっかくの気持ちだからと。私は黙って頷いた。
「それから、俺は真央さんのこと同情してただけで
少しも愛してなかった。
愛のないセックスをしてた。
それはそれで、酷いことをしたと反省しています。
ごめんなさい……」
―――そうだよね。わかってた。
あれは愛じゃないと、晴馬は思っていることはわかってる。
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