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男の匂いも感触も忘れるために湯船につかる。
自分用のシャンプーとボディソープで入念に洗い落とすと、信じられない経験をした我が身を抱きしめて、バスタブで蹲った。
なぜだか私は泣いていた。
無性に悲しくて、言いようもなく虚しくて、涙が止められなかった。
少しすると起きてきた高津が私に帰宅に気付いて、全裸になって風呂に入ってきた。
そして平然とした顔で質問するのだ。
「どうだった?彼は喜んでくれたのか?どんな性癖を持っていた?」
私が泣いているのに気づかない振りをしているとしか思えない。
婚約者にこんな惨めな思いをさせておきながら、仕事のことしか頭にないのだと思うと、この男もまた父親同様に人として何か決定的に欠けているのだ。
「どうした真央。そんな顔をして…。酷いことされたのか?」
やっと、人間らしいセリフが出てきて私の心は急速に冷えた。
返事をする気分じゃないと言って、湯船から出てバスタオルを体に巻きつけていると、突然後ろから抱きしめられた。
「俺が平気じゃなかった。お前は俺の女だ」
取って付けたように彼は私のうなじを舌で撫で上げて囁いた。
そこから濡れた私を抱き上げた彼はベッドに連れていくと、的外れなセックスを始めた。
会話と同じでなにかがズレている。
昨夜の濃密な体験のおかげで私は気付いてしまった。
高津和利との相性は最悪なのだ、と。
そして、私は彼の金とビジネスと結婚しようとしているのだと。
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