PROLOGUE

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群衆の中を歩いていると なぜだろう? 一人でいる時よりもずっと深く 独りを感じる。 首から下げた愛用のカメラNICONで撮影したい被写体を探して 私はブラブラと散歩しながら何の気なしに街路樹の柵に凭れ掛かった。 左手の薬指はまだ結婚指輪の跡が消えていない。 離婚して一人になって、漸く半年。 私は忘れられない男を探している。 別れた夫よりも、もしかすると 魂レベルで分かり合えていたかもしれない彼は 今どこで何をしているんだろう? 最後に電話で話した時は、 もう二度と会えないって言われた。 促されるように絞り出した「さよなら」を後悔している。 何度別れても秋になると貪るように愛し合ったのに、 本当にあっけなく私の前から消えてしまった彼を思うと、 胸が苦しくて。 居なくなって初めて、 彼のことをこんなにも強く愛していたのだと思い知らされた。 ――だからお願い、神様。 もう一度だけ、彼に会わせて下さい。 行き交う人の流れを眺めながら、叶わない夢を何度も願う。 彼が好きなギャラリーの前の広場で、 私は一人再会を待ち焦がれている。
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