第5章 愛するということ

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そうだ、この人は女のように勘が良い。 私が今どんな気分でいるのか、感じているんだ。 私の中に渦巻く感情をどう感じているのか、興味が沸いた。 「……おはよう」 「どうして、ここにいる?東海林と喧嘩でもしたのか?」 「…喧嘩にもならない。彼を壊したのはあなたよ」 高津は露骨に不機嫌な顔に変わる。 「実家が火事で燃えたぐらいなんだよ? 火事で親が死んだぐらいで、 どうしてあんな風に落ち込むのか俺にはさっぱりわからない」 「わからないでしょうね。あなたは世間知らずだもの」 「……真央。俺に腹を立ててるのか?」 「そうね。あなたにもムカつくけど、あなたと結婚してしまった自分に一番ムカつくわ」 私は、結婚式の時に注文したカップをベランダの床に落として割った。 それを見ていた高津は、目を細めて軽蔑したように言い放った。 「お前こそ、世間知らずなくせに! 女のくせに自分が一番賢いと思ってるんだろうが、お前はバカだ!!」 罵詈雑言が飛び交い、朝とは思えない程ドロドロした感情に飲み込まれ。 私達夫婦は、近所や葉月が居るのも忘れて様々な問題発言を披露しあった。 後に引っ越しをしなければならないほど、みっともない喧嘩を二時間も。 最悪な気分が何十倍にも最悪になって。 また酒に溺れたくなったけれど、それも違うと思い直した。 晴馬は仕事を休みがちになった。 彼の不在により滞っていた案件が頓挫する前に手を打つため、外部の同業者に相談して顧客に事情を説明し、仕事そのものを手放した。社員からの目は冷たく、私が居なくなった時に高津との夫婦関係について酷い言われ様をしていることも肌で感じていた。 益々、馬鹿らしくなり。 男にも凝りていた私は自分の慰め方もわからなくなって、思い切ってラスベガスに旅行に出かけて、人生初のスカイダイビングに挑戦した。 青い空、灼熱の大地、地平線の果てまで続く荒野。 剥きだしの肌に強い風があたると、骨ごと吹き飛ばされそうな強さで下から突き上げられた。セックスなんかよりもずっと激しくて狂おしい快感だった。
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