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話し合いが滞るなか義父の葬儀に参列しようと、クリーニングから戻ったばかりの喪服に着替えていた時だ。
私のスマホに着信があった。
葉月倫子だ。
「もしもし」
「私に行かせて貰えませんか?」
間髪入れない勢いがある。
そこに彼女の覚悟を感じた。
「行くって、葬儀に?」
「はい。私が和利さんの妻として彼の隣にいたいんです。彼を支えてあげたいんです」
驚きしかない。
あんな男を支えたいと、私は思えない。
「行ってくれるなら、助かる」
私は本音では行きたくないのだから、これは好都合だ。
この際だから、離婚も前向きに考えて良いのかもしれない。
気付けばビジネスを横取りする夢は叶っているし、
高津は自ら墓穴を掘って、私に養われているような状態だ。ビジネスオーナーと雇われ社長で利害が一致したなら、夫婦である必要なんかない。
「そのまま、あんたに高津を引き取ってもらおっかな。あんたさえ良ければ、だけど」
「本気にしても、良いんですか?」
「良いに決まってるわよ。
私じゃまた見苦しい喧嘩になるだけだわ」
電話を切って直ぐに高津から着信がきた。
「お前、勝手になんてことを」
「葉月はあなたを相当真剣に愛してるわ。
私が身を引けば、ハッピーエンドでしよ?」
「俺の気持ちはどうなる?お前は本当に冷たい女だな!」
この期に及んでまだ女々しいことを。
「私はあなたを愛せない。怒られるなんて筋違いよ」
「俺がお前のためにどれだけ骨を折ってきたか、わからないのか?」
「わかってるわ。晴馬を愛人にしてくれた。あれは本当に感謝してる。だけど彼は私とは違って、自分に嘘つきながら生きられない子なのよ。私は彼から多くを学んだわ」
「ふざけるな!」
「大真面目よ。葉月の真っ直ぐな愛を受け止めてみて。今世紀中にあんな一途な子には、もう二度と出会えないわよ」
「俺はお前しか愛せない!」
「あら、それは嘘よ。あなたは葉月を愛してるでしょ?」
駄々っ子を嗜めるように私は優しくて語りかけた。
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