第5章 愛するということ

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「一年前に知ったけど、相続放棄とか、借金の契約とか、父の失墜についても、貴方達親子が私にしてくれた数々の嘘や不正は、もう水に流してあげる。私を性奴隷にしたことも、避妊手術したことも、かなり憎らしかったけど、もう忘れても良いと思ってるのよ。この意味、わかる?」 「………」 「あ、そう。わからない? じゃ、簡潔に言うわよ。 一回しか言わないから、よく聞いてね。 私はあなたとは金輪際関わらないって決めたの。 さよならよ。 離婚弁護士から連絡が行くから、宜しくね」 「……待ってくれ。見捨てないでくれ」 高津は小さな子のように涙声で引き留めてくる。 「あなたのお守りはもう懲り懲りよ。 じゃあね」 私は電話を切った。 嗚呼!清々した!! 私はトランクに荷物を積み込んで、ブランド物のバッグや靴や宝飾品を売り、百万円ほどの現金を手に入れた。 仕事は辞めないつもりだったけど、高津とは本気で縁を切りたいなら、辞めて別の生き方を見つけた方が良いのかもしれない。 私を縛る人はみんな死んだ。 いいえ。 私が勝手に縛られていただけかもしれないわね。 もう、潮時だわ。 優秀な税理士と弁護士に恵まれた私は、中途半端な案件を同業者にお願いして、いよいよ本格的に高津の会社の休眠手続きに移行した。 従業員の引き受け先も探して、お世話になった得意先に挨拶周りをして、かなりの時間をかけたけれど納得のいく後始末ができたと思う。 背負っていた責任を全て手放したところで、予想外の事態が起きた。 自宅で大工作業中に脚立から落ちて、打ち所が悪かったのか丸一日も気を失っていたのだ。
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