第5章 愛するということ

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「お誘い、ありがとう。でも、もうしばらく時間が欲しい。 でも、退院したら一度大場君の部屋見せて貰いに行こうかな」 「いいっすね。じゃ、健康診断とリハビリ頑張ってください」 仕事仲間としてなら彼は心地よい相棒と言ったところだ。 そんな人と親密になって縁が切れるのは、大変勿体ない。 一日に二人の若い男に求愛されるなんて、悪くないと思った。 最後にやってきた刑事さんの言葉を聞くまでは。 「原田未央さんの死因は、絞殺による呼吸停止だと判明しました。 彼女が亡くなった日、あなたはどこで何をして誰と一緒に居ましたか?」 病院のベッドで、命の恩人から職務質問をされるなんて、やっぱり複雑。 14年間も蒸発しておいて、最後の最後には容疑者扱いだなんて酷い。 ここまで来ると、もう笑うしかない。 私が笑い出したのを、奇異なものを見るように見つめている真面目顔の刑事さん二人に言ってやったわ。 「刑事さん。 あの人、パパが自殺したことももしかしたら知らないんじゃないかな。 14年もの間音信不通で、生きているのかも知らなかったのよ。 どうやって殺せる? それに、恨んだ時期はとっくの前で、今の私に彼女を殺す動機なんてないです。 その日は、夫の愛人とホテルのレストランで女子会してました。 彼女の名前は………」 検査が終わり、肺に影があるからしばらく通院しろと言われた以外は健康だった。そろそろ本気で煙草を止めた方が良い。 「婦人科の検査もしておきませんか?もう32歳ですし」と提案され、私は10年ぶりに婦人科のメディカルチェックも受けた。そこでまた初めて知ったのだけど、私の不妊手術は卵管カットと言っても、クリップで菅を閉じているだけのものだったと判明。除去してもらった。時間は必要みたいだけど、まだ妊娠できることを知って、とっても嬉しかった。 怪我の功名とはまさにこういうこと。 「さすが、真央。転んでもただでは起きない女」と、自分につぶやきながら。 棒付き飴を舐めて、部屋のクロス貼りに精を出した。
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