第5章 愛するということ

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秋から冬の間に、合計5回晴馬の部屋でセックスした。 昔はあんなに性欲があったのに、今はすっからかん。 もしかしたら、ストレス発散のために快楽依存症に陥っていたのかもしれない。 施設に入って不眠治療をした時も、元の生活に戻った途端に再発した。 仕事もそうだし、プライベートでも私の人生は常に脅威に対抗するために身構え続け、神経をすり減らしていたんだな、と思う。 弁護士から連絡が来て、離婚の合意がまとまって正式に離婚が完了。 ややこしい借金問題も、正式に銀行とのやり取りに移行して高津とは完全に縁が切れた。 離婚に際して彼は晴馬との悲しく辛い思い出が詰まった愛人ハウスをくれた。 せっかくだから、内装工事を自分でやって他人に貸すことに決めた。 このマンションの一室に来ると、苦しかった頃を思い出す。 あんなに強い共鳴がどうしてこんな結果になったのか、私にはわからなかった。 当時を思い出しながら、晴馬がどんな気持ちでいたのか想像していると、彼に会って抱きしめたくなってしまった。 秋だけ会うのは私が勝手に決めたルール。 だから破っても良い、と自分に言い訳しながら、やっとの思いで押した晴馬の番号。 電話に出た彼の声は、まるで別人のようだった。 「ねぇ、どこにいるの? また、眠れなくなっちゃった…。今すぐ会えない?」 できるだけ平然とした声でそう伝えると、晴馬は… 『…200万円』と、ぼそりとつぶやいた。 「あぁ、それ。高津が手切れ金だって言ってたわ」 『じゃ、俺達はもう会っちゃいけないでしょ』 と、冷たく突き放すように言う。 変わってないけど、なんだか懐かしくなった。 「何よ、今更? そんなこと言いながら、結局私の家の中に招き入れて抱いてくれたじゃない」 『…もう会わないよ』 「なんで?」 『だって、俺。今、すんっごい北に居るから』 元気そうだ。よほど、私に居場所を教えたくないらしい。 なんだか、晴馬らしくて可笑しくて笑ってしまいそうになるのを噛み殺した。
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