貰った人生

3/3
前へ
/3ページ
次へ
僕が桜の君に会った(というと語弊がある実際には声を聴いただけ)のは、死ぬ約1時間前。 その日は予定など特に無く暇だったので、家の周りの住宅街をただひたすら歩いていたそんな時。道路のど真ん中に大きな桜の木が現れたのだ。 生えているのはさっき迄はどう見てもアスファルトだった場所。今桜の木が根を張っているのは紛うことなき土だ。所々草が生い茂っている。 綺麗だった。満開に咲いた桜が踊るように花びらを散らせ、その空間だけが切り離された様な感覚。実際に現実とは切り離されて居たのだろうけれど。 僕は高ぶる動悸を抑えようと必死だった。 『君は後一時間後に死ぬね。 そうだな、死にたく無ければ100万円払う?』 唐突にはずんだ声が聴こえた。 桜の木に姿の見えない声と混ざりあって魅了されたのは言うまでもない。 「それだけ払ったら、僕は後何日生きられるの?」 『さぁ?私の寿命がある限りじゃないかな』 「無責任だなあ…他の人もこんな感じだったの?」 『生きれる長さも払うお金も人によって様々だよ。君には今迄で1番高い金額を払ってもらうことになるね』 「なんだそれ」 『猶予をやろうってんだからそれぐらい当然だと思うけど?』 まあそうなんだろうけれど。 噂では、彼女の寿命を数日分貰って僕達は生き返っているのだという。そんな事をして彼女に利益があるのか不思議な所だか、お金を対価にしているのならそれなりにあるのかもしれない。だけどその対価はきっと使われることは無いのだろう。 だって彼女は桜の木の下に埋まっている。 『例えば空から100万円が降ってきたとしたら、君はどうする?』 僕は、 「僕は君の人生を買うよ」 ふわりと笑った気がした。
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加