夜桜乱舞

夜桜乱舞５年目

俺は大学１年の時、ソメイヨシノが撤去された年に、中退をする事にした。
親から猛反発を受けたものの、俺の決心は固かった。

そしてその一年後の今。

ソメイヨシノの一件以来、俺は桜をメインに花の写真を撮るようになっていた。

花たちがどんな風に見られたいのか、どんな気持ちで花を咲かせるのか、それを人々に伝えたくて、俺は写真の道を選んだのだった。

さらに桜の病気について学び、ボランティアで桜の木の点検も行うようになった。

ソメイヨシノの時のような不思議な出来事は二度と起きなかったが、もうそんな必要もないだろうと思った。
必要なことはソメイヨシノが全部教えてくれた。

…ソメイヨシノ、今も幸せか？

たまにそんな事を思う。

俺の撮影したソメイヨシノの写真は、額縁に入れて部屋に飾ってある。

公園で出会ったおじいさん、今の俺の師匠は個展に出品するべきだと言うが、あの写真は作品ではないから、と断り続けた。

気付くのが遅れてしまったけれど、あれはソメイヨシノの心そのものだった。

今年も桜の季節がやって来た。
夜桜乱舞の季節もだ。

もう二度と桜達のメッセージを聞き逃さない。

そして今日も、俺はシャッターを切る。