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俺が「電波女」と出会ったのは2年前に遡る。
当時高1だった俺は、クラスメートの夜桜乱舞参加チームに誘われていた。
夜桜をバックに夜通し踊るなんて聞こえはいいが、実際はチームを組んで参加、1番だの2番だの順位を競うチーム対抗戦だった。
昔はそうでもなかったらしいが、これじゃ夏祭りの盆踊りの方が余程趣があるというものだ。
練習をサボって夜桜が舞い散る公園を歩いていると、着物を来た女が一人、ライトアップされた夜桜の下に座っていた。
座っているというか、具合が悪そうか…?
「あの、大丈夫ですか。」
俺は基本的に面倒はごめんだが、さすがに夜の公園に具合の悪い女を捨て置くわけにはいかないだろう。
「ちょっと貧血で…。」
同い年くらいか?顔を上げた女は、額に汗を浮かべていた。
夜桜乱舞の参加者で踊っていて気分が悪くなったのだろうか。でも着物だしな。
顔を覗き込むと、日本人形を連想させる髪型に色白の肌、赤い唇で…ってこいつまるっきり日本人形みたいじゃないか!
それはさておき、どうしたものか。
「あの、あそこの桜の木まで連れて行ってもらえませんか?」
女が指差したのは、ライトアップされていない辺りの桜群にある一本の桜だった。言われるがままに彼女を支えながら歩いたが、あんな薄暗い所に連れて行くのを誰かに見られたら、誤解されかねない…。
「ありがとうございます、ここが1番落ち着くんです。」
礼を言ったかと思うと、続けて彼女がこんな事言い出した。
「ご存知ですか?この桜の花はもっと色が濃いんです。でも貧血で花の色が薄くなっているんです。」
-助けてくれませんか。
そう彼女は言った。
…こちらのご婦人は電波様で有らせられるのでしょうか。
「来年、気が向いたらね。」
俺は適当に返事をすると、さっさと立ち去る事にした。
…電波女の扱い方は心得ていない。
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