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夜桜乱舞2年目
初めて参加した夜桜乱舞では余り良い思い出がない。疲れるわ、筋肉痛にはなるわ、いざ出場したら周りは様々なコスチュームを来ていて体操着の俺達は浮きまくりだわ…。
じーちゃんばーちゃんの方が余程気合いが入っていたし、体力もあった。
…大したもんだ。
そういえば、変な女に会ったのもこの辺だった。
俺は去年と同じ公園を歩いていた。
今年も早いもので、夜桜乱舞の季節となった。
今日は生憎の雨。これじゃ桜が散ってしまってただの乱舞になるな、なんて思っていると、去年のあの桜の下にまたしても着物の女が佇んでいた。
…またいる。
今回は昼間だったが、桜の木の下で傘もささずにびしょ濡れになって、電波女といえども流石に放っておけなかった。
「風邪ひくぞ。」
俺は自分が持っていた傘を差しだした。
電波女が俺に気付いて、「あなたこの前の…。」と言ったが、その顔色が異常なまでの白さだった。
この前のというより1年も前なんだが…
「体、どっか悪いの。」
思わず聞いてしまったが、電波女相手にしまったと思った。
「私、病気になりそうなんです。私を見てくれる人はいるけど、きっと気が付けないと思います。来年、再来年まで舞えるかわかりません。」
その話を聞いて、「病気になりそうってなんだ?」と思いつつ、この電波女も夜桜乱舞の参加者なんだなと俺は思った。
「私は舞う事しかできません。でも私は私をずっと見てきてくれた人にお礼をしたい。でも舞いを見せることでしか、恩返しの方法を知りません。お願いです、助けてくれませんか。」
あぁ、電波女な上に面倒な女だ、聞くんじゃなかった。
「私、ソメイヨシノと申します。あなたは…」
と話掛けてきたのを遮って、
「俺行くとこあるから。傘はやる。早く帰れよ。」
と言って俺はその場から走り出した。
正真正銘、電波女だったか。
ソメイヨシノなんて桜の名前だし、大体あの辺の桜は花の色が薄いからソメイヨシノでもないだろうに、悪趣味な冗談だ。
行くところなど本当はなく、ただ帰宅するだけだった。
今年の夜桜乱舞の夜も、夜桜が見事に咲き誇っていた。幸運な事に雨の影響も少なく、昼間から並ぶ屋台も盛況のようだった。
夜桜乱舞の時間になって、なんとなくあの桜の木のところを見たが、電波女はいなかった。やはり参加者なんだなと思って会場を見渡したが、着物姿の女は一人もいなかった。
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