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夜桜乱舞3年目
「このままでは私、隔離されてしまいます。それに切断されてしまうかも。焼かれてしまうかも…」
そして現在、今年で3年目。
やめときゃいいのに、俺も俺で毎年電波女を見かけては声を掛けてしまっていた。
…ここまで来るとサイコさんだな…。
俺は真面目に接点を無くそうかと考えた。夜桜乱舞の時季にここを通らなければいいだけの話だ。
「お願いです、助けてくれませんか。」
まだ言うか。「医者に診てもらえよ…。」と小声で呟くと、電波女は黙り込んだ。
お互い黙り込んでしばらく、電波女がこう言った。
「写真、撮ってもらえませんか。」
「写真?まぁそのくらいなら…。」
俺が電波女に携帯よこせと言うと、そういう事ではなく俺の携帯で撮影して、思い出に持っていてほしいとの事だった。
日本人形の写真を撮る趣味はないけどな…。
「私は長い間この季節に舞って来ましたが、私はこの通り体も小さく目立ちません。スポットライトが当てられるのはもっと大きく優雅に舞う方達ですから、一度で構いません、私が主役になってみたいんです。」
分かった分かった、俺はスマホを取り出すと、電波女にカメラを向けた。
「笑えよ。」
そう言うと、電波女は微笑んだ。
何だか今にも消え入りそうな、儚げな微笑みをするから驚いた。
ちょうど風が優しく吹き、桜が少しだけ舞い散った瞬間、俺はシャッターボタンを押した。
夜桜乱舞の夜、夜の部の祭りの開催時間前にいつも電波女のいる桜の木の下へ行くと、やはり電波女がいた。
俺に気付いた電波女は、珍しく挨拶もせず、急に話し始めた。
「舞えるのは今年で最後だと思います。私、最後まで見事に舞ってみせますから、見ていてくださいね。」
電波女がそう言ったかと思うと、急に吹き出した強い風で桜が激しく舞い散った。
あまりの激しさに、咄嗟に手で顔を庇った。
一瞬視線が外れただけなのに、電波女の姿がもうなかった。
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