12人が本棚に入れています
本棚に追加
夜桜乱舞4年目
次の年、桜の季節。
「市立公園のソメイヨシノが、撤去される事になりました。」
俺の耳に、そんなニュースが飛び込んできた。
「このソメイヨシノはてんぐ巣病とみられ、感染した枝は切られ焼却処分されましたが、他の桜への感染が懸念され、この度撤去される事となりました。」
ソメイヨシノ、そう聞いてテレビ画面に目をやると、そこにはあの公園の電波女の桜の木が映っていた。
花は一つも咲いておらず、枝は切られ、最後に見た時とは似ても似つかぬ姿に変わり果てていた。
「嘘だろ…。」
俺は慌てて家を飛び出した。恐らく電波女はこの事を知っているはずだ。
あの桜の木がなくなったら、あいつはどうするつもりなんだろう。
走って走って公園にたどり着くと、既に咲き始めている桜を余所に、一本の桜が撤去されようとしているところだった。
…電波女は…?いない…。こんな時に何やってるんだ…。
撤去作業の野次馬の一人に、俺は思わず声を掛けていた。
「あの!この桜の前で俺と同じ歳くらいの、着物姿の女の子見ませんでしたか?」
桜の写真を撮りに来ていたのか、立派なカメラを首から下げていたおじいさんは、
「女の子?見てないねえ。迷子かい?」
と答えた。
いろんな意味で迷子な女だが、今はそんな事を言っている場合ではない。
「この子なんですけど…!」
俺は以前スマホで撮影した電波女の写真を見せた。
「これは見事な桜の写真だね…!君が撮ったのかい?」
おじいさんは感心した様子で言った。
「いや、バックの桜じゃなくて、被写体の女の子の方…」
桜を気にするのは桜の写真家の性なのだろうかと思っていると、
「え?女の子なんて何処に映っているんだい?」
おじいさんの口からそんな言葉が飛び出した。
最初のコメントを投稿しよう!