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その夜、夢を見た。
「お兄さん、お兄さん。」
赤っぽい髪の色をした、ムチムチの美人なお姉さんが話掛けてきた。
「私はソメイヨシノ、あなたの知り合いのソメイヨシノとお友達なの。」
…ソメイヨシノがソメイヨシノで…なんだって?
「伝言預かってるわよ。」
…何の事だ?
「約束守ってくれてありがとうって。」
…約束…?
「最後まであの子の舞、見てあげたんでしょ。私達桜にとって、最高の散り方だわ。」
…桜?電波女のことか…?
…あいつ桜だったのか?
…そういえば、俺はあいつを助けてやらなかった。何度も助けてって言っていたのに。
「あの子は体が脆くなっていたから仕方ない事よ。桜の私達が言うのはおかしいかもしれないけど、命はいずれ土に還るの。それが早いか遅いかだけよ。…それにあの子は満足していたから。」
お姉さんはさらに続けた。
「あなたは感受性が高くて、ソメイヨシノが見えたのね。その感受性を活かして、これからも私達の声を聞いてくれると嬉しいわ。そしてそれを人々に伝えて貰えれば、もっと嬉しいわね。」
…どうやって?
「それはあなた次第。…時間だわ。確かに伝えたわよ!」
夢はそこで途切れた。
目覚めてから夢の内容を反芻した。
…そうか、電波女は桜だったんだ。
信じがたい事だが、そうだと思う事しか自分を納得させる術がなかった。
電波女、いやソメイヨシノとの出来事を、俺は一生忘れない。
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