岸和田くん注意報

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 体育館裏。岸和田くんはやっぱりここにいた。教科書は入っていないだろう薄い学生鞄が、地面に放り投げてあり、いつものように子猫を抱いている。岸和田くんは私の呼びかけに反応したものの、無視を続けていた。  人懐っこい子猫のメグが、彼の代わりに、鳴いて返事をした。まん丸の無垢な眼で、興味深そうにこちらを眺めている。 「何で急に逃げ出すかなぁ。岸和田くんって、とんだ勘違いヤローなんだね」  私は大げさな溜息を付いて、彼の隣にしゃがみ込んだ。「なっ……」岸和田くんは憤慨したのか、声を上げた。 「本郷くんは一年の時同じクラスで、たまに恋愛相談に乗ってたの。今回だって、そう。私と同じブラスバンド部の子が気になってるから、カレシいるのかとか、好きな男の子のタイプとか、それとなく訊いてくれないかって頼まれただけだよ。別に、私が告られた訳じゃないんだけど……」  ちらりと隣の岸和田くんを盗み見ると、彼はバツの悪そうな顔をして、唇をへの字に曲げていた。彼の手からメグを抱き上げると、愛らしい眼を見つめながら続けた。 「こんな分からず屋の不良くんはほっといて、メグは私と一緒におうちに帰ろう。ずっとここで住む訳にはいかないものね」

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