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「何を隠そう我々も昔はそのような暮らしを続けておりましてな。いやはやあの時代は素晴らしかった。来る日も来る日も体を鍛え、霞を食って生きる。欲望を抑え、無心となり年長者に祈りを捧げる。ああこれこそが人間として本当の姿。そう実感しました」
村長が仙人に見えたのも強ち錯覚ではないらしい。
しかし、その村長は少し気を落としたような顔になりました。
「ですが最近ではめっきり山から降りてくるものも減っておりましてな。修行の最中に亡くなるものや逃げ出すものが後を立たないのです。全く恥ずかしい話です。このままではいずれこの村は滅びてしまうでしょう」
村長は溜め息をつく。情けない、と見えない山の若者たちを嘆いた。
「あなたたちの文化を否定するつもりはありませんが、だれもこのしきたりに反対するものはいなかったのでしょうか」
旅人が尋ねました。
「いないわけではありませんでしたよ。ですが、皆、仙人となり尊ばれたいのです。修行をやめるものはいませんでした。それもまた人間の性でしょうか」
では私は仕事が残っておりますので、と村長はそばにいた家畜を片腕だけで持ち上げました。これが修行の末に手に入れた力なのでしょうか。
「最後に一つ聞いてもよいでしょうか」
「おや、何でしょう」
「なぜあなたたちは自分達で仕事を?」
旅人はこの村に来てからずっと気になっていたことを尋ねた。養われるべき存在である老人たちは皆、自ら進んで仕事に打ち込んでいる。それが不自然でならなかった。
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