第1章 幸福な日々

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 なので大会はPC版の環境でログインする規則。でもPC版だと――  操縦席じゃなく自宅の椅子に座って、据え置き型の操縦桿とペダルで操縦。  音と映像は全天周モニターじゃなく、仮想現実(VR)用ゴーグルで。  どうしても〝ロボットに乗ってる〟って臨場感がアーケード版には及ばない。  いや、PC版でも筐体で遊ぶことは不可能じゃない。筐体を買うお金と、自宅にそれを置くスペースがあれば。  庶民には無理。  アーカディアン専門店はそんな僕たち庶民に〝筐体でのPC版プレイ〟を提供してくれる。  世界大会決勝戦ほどの大舞台、やっぱコクピットで戦いたい。だから今日はここに来た。 「もしもし、母さん? ……うん、勝ったよ。今から帰るね……はーい、じゃあね」  携帯電話(スマホ)の通話を切ると、画面に映る時刻は午後6時。支払いして店を出ると、辺りは薄暗くなってた。見慣れた近所の商店街を、夕日が赤く染めて。  電灯が切れかかったような暗さ。  見上げると、横に倒した巨大な土管のような円筒形の中にいるのを実感する。  6km上の天井に縦に伸びる、透明な窓。  その向こうにある鏡に太陽が映ってる。     
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