第1章 幸福な日々

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 あれは無数の1m四方の鏡の集まり。1枚1枚向きを変えられ、円筒内に光を入れる枚数を時刻ごとに変え、明るさを調節してる。  夕刻はその枚数が少ないだけで、太陽は沈まず昼と同じ位置にあり、色も変わらない。  徒歩での帰り道。  車の行き交う町。  排ガスの臭いはしない。密閉空間で空気汚染の制限が厳しく、車は全て排ガスを出さない電気自動車だから。  町並みは前住んでた東京と大差ないけど――ここは宇宙。  月近傍L1宙域に作られた人工居住地スペースコロニー。 〝高天原(タカマガハラ)〟  僕が幼稚園ぐらいの頃は一般人が宇宙に住むなんて夢のまた夢だったのに……すごい時代になったよね。  今年は西暦2037年。  小学4年生の頃、完成直後のここに両親と移住して、もう4年か。  夕日みたいな、ここじゃ見れない地球の景色がたまに恋しくなる。  地球に帰りたくなるほどじゃないけど。  このSFっぽい景色の方が好きだから。  円筒形のコロニーの側面は、両端を結ぶ6つの直線で6等分されて。  人が住む〝(おか)〟と。  採光窓の〝(かわ)〟が。  交互に3つずつ配置されてる。  頭上ではこの(おか)と60度離れた2つの(おか)に建物や樹木が逆さまにぶら下がってる。落ちてこないのは、コロニーの重力が遠心力だから。     
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