第1話

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 異世界に呼び出された自分を待ち受けていたものは案の定、降りかかる災いから国を救い人々を助け導く勇者となることだった。ネットゲームのサービス終了を惜しんでギリギリまでログンイしていたわけでもない、途中で寝落ちしたわけでもない、ましてやトラックに轢かれたわけでも、後ろから刺されたわけでもない。目が覚めたらここにいたのだ。  しかし、残念なことに私には勇者としての素質が欠落していたのだ。与えられたのは勇者の加護ではなく、魔法の才能だった。  なぜ勇者として不適格な私が召喚されたのかは原因不明で、元の世界へ送り返す方法もないということだった。呼び出した張本人である神官は首を傾げるばかりで明確な説明などなかった。今思えば、一発ぶん殴っても許されたはずだ。  考えてもみて欲しい、例えばネット通販で購入した物が、届いてみれば目的の物ではなく、しかもそれが何の役にも立たないガラクタだったとしたらどうするだろう。それも、返品不可のおまけ付きである。  間違いなくゴミ箱へポイッである。それだけは何としても避けなければならず、必死に魔法を習得した日々が懐かしい。  そりゃ号泣しながら勉強しましたよ。  今まで読んだこともないような分厚い魔導書を毎日毎日、来る日も来る日も。魔術の練習で怪我が絶えず風呂が大っ嫌いになっても、日本人としてのアイデンティティすらかなぐり捨ててがむしゃらに魔術師を目指した。こんな訳も分からない異世界で捨てられたらそれこそ命の危険がある。魔法の才能に恵まれたことが唯一の救いだったが、それすら気休めに思えた。     
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