僕の仕事

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「おお、やる気になったね。誰でも最初から全部わかってる人間なんていやしないんだよ。あたしだって最初は、パソコン教室に通って覚えていったし。言ったろ、あんたは要領が悪いだけなんだ。不器用で、その上貧乏だから学ぶ土台も整っていないってだけのこと。それに、わからないことは恥じゃないんだ。わからないなら、聞けばいい。一つずつ、覚えていけばそれでいいんだ。この歳になったって、あたしも日々勉強だよ」  なんだか自信が湧いてきた。今までたくさん受けてきたバイトの面接で、こんなに前向きになれたことは一度もなかった。おばあちゃんは、今までのどの面接官よりも本気に僕を採用しようとしてくれている。そのことが、とても嬉しかった。 「最後にもう一度聞きますけど、本当にいいんですか、僕なんかを」  厚かましいとか、恥ずかしいとかはもう、構っていられない。ただ、おばあちゃんに後悔だけはして欲しくなくて、考えて貰う最後の時間を作った。 「ああ。あたしは、顔見たらいい人か悪い人か、わかるんだよ。あんたは強盗なんてできるタイプじゃない。例え貧乏でも、真面目にコツコツと働いていくのが向いてる」  おばあちゃんがくれた、おそらく僕にとっての最後のチャンスを無駄にしたくない。  お店にそろそろ子ども達がやってくる頃、僕はここで働くことを決めた。 「この店はねえ、あんたが子どもの頃からとっくに存在してたんだよ。当時から、ここは子どもたちの憩いの場で、たくさんのお菓子が並ぶ夢のような場所だった。今日は何買おうかって考えながら、それを楽しみに一日頑張るんだ。お小遣い握りしめて、必死に選ぶ姿見てたら、儲けなんて二の次。あたしはこの、夢のある商売を心から楽しんでるんだ」  一般の会社でいうのなら、これが「経営理念」みたいなところだろう。僕はおばあちゃんと同じ気持ちでこの店に立たなければいけないのだと、心に刻み込む。
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