僕の仕事

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 次の日、アパートを引き払う手続きをしてから、僕は早速駄菓子屋に引っ越しをした。とは言っても、家具や家電は退去日までに粗大ゴミで出すから家の中にそのままだし、持ってきた物と言えば、母さんの写真と小さなテレビ、それに数日分の洋服だけなんだけど。  おばあちゃんの家は古いけれど、例えばお風呂場は最新のものにリフォーム済みだったし、和式を想像していたトイレは用が終われば勝手に蓋が閉まるっていうやつで、初めてそれに遭遇した僕はびっくりして声を上げそうになった。 「家ごと建て替えてもいいけれど、どうせババアが一人で住むんだし、無駄だからね。あたしは意味がないことにお金を使いたくないタチなんだ。でも、便利だと思うことや必要なことにはどんどん使っていくから、店をやっていく上で入れた方がいいと思うものがあれば、気軽に相談してくれて構わないよ」  もちろん、今の僕には何も浮かばない。けれどいつか、キリッとかっこよく提案できるようになるくらい、頑張ってみせる。  写真立ての埃を久しぶりに拭い、新居に母さんの居場所を作った。 「ご飯できたよ」  一階から、僕を呼ぶおばあちゃんの声が聞こえる。僕は、勾配のきつい階段をゆっくりと降りていった。
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