僕の仕事

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 バイトからの帰り道。家に帰ってもすることがないから、時間つぶしに遠回りをした。通り一つ違うだけで、まるで違う場所に来たみたいだった。おもしろくなって、更に家から遠ざかっていく。  小学校からほど近いところに古ぼけた駄菓子屋があった。僕が子どもの頃に存在していたようなその佇まいは今のこの世の中にまるで合っていなくて、そこだけ一昔前に取り残されているような気がした。きっと、中で店番をしているのもしわしわのおばあちゃんだろう。そう思って、店の前を通過する時、目だけを動かして確認する。想像通り真っ白な頭の人が奥に座ってお茶をすすっていた。  午後一時。駄菓子屋に子どもたちが押し寄せるのはもう少し後だろう。僕の中で何かがはじけたような刺激を覚える。今だ。僕は、ズボンのポケットに手を突っ込んで、駄菓子屋の中へずんずんと進んで行く。 「いらっしゃい」  おばあちゃんは、こちらを見ずに声だけ上げた。なんともやる気のない、自動音声の応対のようだ。僕だったらもう少し元気に言える。なのに、このおばあちゃんは仕事を持っていて、僕は仕事ができていない。世の中、なんて不公平なんだろう。僕の正体不明のパチパチとした刺激は、更に大きくはじけた。
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