僕の仕事

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「怖い人ってのは、何考えてるかわかんないような、目が死んでいる奴さ。冴えない息子が、嫁にしたいと連れてきた女がえらく美人で頭も切れたけど、目が笑ってないんだ。ピンと来たあたしは影で反対した。なのにそれを振り切って、あの子はその女と結婚した。本当にバカ息子だよ。結局うちの財産目当てで、息子そのものには価値なんて何にも感じてなかった。そんな女にも、そいつが産んだ孫にも、うちの敷居はまたがせない。今頃ようやく事態に気づいたバカ息子もね。けど、あんたはそんな奴らとは違う。不器用だし、何も知らない世間知らずだけど、賢く生きる方法をただ知らないだけさ」 「……はあ」 「全部、真面目にやらなくていいんだよ。世の中みんな、自分にあった仕事をしているわけじゃない。それでも続けていられるのは、賢いからさ。力の抜き方を知ってるんだ。あんたみたいに、全部に正面からぶつかっていってたら身体が持たないよ」  おばあちゃんは、僕が空にした食器をまとめ、流し台へ運んだ。ジャー、と勢いのいい水の音に負けじと声を張り上げる。 「最近ホントに力がなくなってねえ。仕入れの段ボールの片付けもすぐに息が上がるし、あんたが仕事してくればあたしも助かるってもんだよ」  僕が「うん」と言いやすいように、おばあちゃんは気を遣ってくれているんだ。本当は「そんな必要はない」って強く断れるくらいの方がかっこいいんだろうけど。 「あの……防犯カメラの管理とか、お店の売り上げこととかなんですけど。こんなお店でもやっぱりパソコンなんですか?」  今、こんな質問するのかよ、ってくらいかっこ悪い僕。
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