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次の日もまた、桜の木の下に来た。
今日は、本ではなくチョコレートを持ってきた。昨日のお礼に彼女に上げたくて。
桜の木へ来る前に母に会った時、母はどうして私の分はないのかと文句を言われた。
桜は、風に舞う。
桜の木の下に座りながら、手にあるチョコレートを眺める。
君の名前も、声も、好きな物も何も知らない。
チョコレート好きだといいなと思いながらいつのまにか眠ってしまっていた。
「…あの…。」
声をかけられて、目をゆっくりと開けると彼女に似た男性が僕の前に立っていた。
「何か?」
「…姉が、あ世話になりました。」
彼の言葉の意味がわからず、怪訝な表情をしてしまっていた。
「ここで本を読んでいたの俺の姉なんです。姉から、貴方のこと聞いて…。」
下唇を噛みながら、言葉を選ぶ彼。
「…姉は、言葉が話せなくて。何も答えられない自分に嫌な顔をしないで話を聞いてくれる人が居るって嬉しそうに教えてくれたんです!ここ最近は、ずっと体調が良かったんですよ。だから、外に出ることも許可出てたし…。」
彼が言おうとしている事はなんとなくわかってきた。
「…もう、来れないでしょ。」
彼は小さく『はい』とだけ答えた。
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