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お茶とお饅頭を満足いくまで堪能し、私達は東のお屋敷に帰ることにした。
堪能しすぎて遅くなった私達を心配した薫くんが電話してきたっていうのもある。
「長居してしまってすみません」
「いえ。雅ちゃん、またおいで」
「はーい」
鳥居の向こうまでということで春道さんもお見送りに出てきてくれた。
神様は……うんうん、いないね。ちゃんとお仕事してるのかな?
「ばいばい」
春道さんに手を振って神社に背を向けて巳鶴さんと歩き出した。
「雅」
名を呼ばれ、声のする方、鳥居の上の方を見上げると、神様が鳥居に腰かけていた。
神様は湯気の立つ湯呑を両手で持ち、薄く口元を上げてこちらを見下ろしてくる。
ありゃまぁ。お仕事してるかと思ってたのに。
「なんですか?」
いつの間にか夕日が空を赤くしていて、その色が神様の背後から私の目の中に入ってきた。そのせいか、神様が、笑っているはずの神様が、ちょっぴり怖い。
それを気取られまいと声をいつもより大きく張り上げた。
「お前はどれを選ぶのだろうなぁ?」
「え?」
「……いや。なんでもない。気を付けて帰れ」
冷たい風がサッと吹いたかと思うと、神様はもうそこにはいなかった。
「雅さん」
「……かえろ」
ちょっとでも不安に思うこの気持ちを早く落ち着かせてもらうべく巳鶴さんの手をキュッと握る。
巳鶴さんは何か言いたげだったけど、フッと表情を切り替え、いつものように笑ってくれた。
神様は、いつも中途半端な助言をくれる。
本当はおおよそお見通しなのに。
神様は懐が深くて、おおらかで、でも、時にとても意地悪なのだ。
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