イノセント・アイ

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 彼はいつも忙しい。後輩から頼られることも多く、人柄から先生達からの信任も厚かった。それでもなんとか懸命に、私との時間を確保してくれていたように思う。私のために頑張ってくれている。初めのころ、私はそう思っていた。  そんな折、彼の日記を盗み見たことがある。  彼がクラスの仕事で先生に呼び出されてしまったとき、残された鞄からちらりと背表紙が覗いていたのだ。私は悪いなと思いながら、でも誘惑には逆らえずページを捲った。そこには、私と見た映画のことや、交わした会話が書かれていた。  でも、私は気づいてしまった。彼の一日の文章の中で書かれる私の部分の分量は、ほかの出来事と均等割に行数が一致していたことに。  一日だけかと思って、ほかのページを見てみても結果は一緒だった。そこで私は、彼が誰に対しても優しい理由がわかった気がした。そして私がずるをしたのは二回目で、彼はどこまでもイノセントだった。彼のことを理解するたびに、私の孤独は深まっていく。   私は、一人で悲しくなり、そしてこっそりと一人で泣いた。  それでも私は何事もなかったかのように彼と付き合い続けた。彼はきちんと彼氏としてのイベントを消化していたし、サプライズだってもちろんあった。私は嬉しくて泣いたりもした。でも、ふと思い返して彼の日記を覗くたび、私は落胆を禁じ得なかった。  友達に、彼と別れようと思う、と相談をしたことがある。その友達は酷く怪訝な顔をして、一言目に馬鹿じゃないの? と言った。試しに私はどうして別れたいと思ったか、その理由を丁寧に説明してみることにした。  彼女はそれを聞いても、ありえない。好きなのに別れるなんて。首輪を外したら、ほかの人に取られちゃうよ? それでもいいの? もったいないよと憤った。それは真理だった。昔の私は正しくて、今の私は子供だった。だからずるずると私は彼とつきあい続けた。何かを終わらせるには、特別な日がいいと決めていたから。
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