イノセント・アイ

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 それは、花びらの一房も落ちたと知れない満開の桜が見晴るかす彼方に広がる、三月の卒業式のことだった。 「別れましょう」  私は、為し得る限りの静かな声でそう告げた。そこは昔、私が彼に告白をしたのと同じ場所だ。 「どうしてですか?」  彼の言葉。それはこの一年付き合って、いや、きっと付き合う関係にいなくても、おそらくは予想し得たであろう問いであった。 「キミのそういうところ、実は少し苦手だった」  年上としての矜持で、せめてもに笑って見せたけれど、きっと眉の辺りが困ったように不自然な形になっていたと思う。  彼は、何かを理解しようとするように、静かにじっと私を見ていた、玉のように綺麗な黒瑠璃の瞳には、一体何が映っていただろう。私はその視線に耐えきれず、どこかへそっと目をそらした。 「これ以上、話すことは何もないわ」  それは嘘だ。  本当は私を特別に思って欲しいと言いたかった。私のこころの全てをぶつけたかった。けれど、そんな勇気は私にはなかったのだ。
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