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終わりと始まり
その日、世界は粉々に押し潰され、繋ぎ会わせられないほどに切り刻まれた。
真っ赤。黒。闇。眩しい。痛い。
最初に感じたのはそれだった。ただ動くことも声を出すこともできないと。ただ映し出されるものは目の上を滑って行き、何を見ているのかさえ理解できなかった。息を殺し、音を無くし、気配を断つ。一族の中で一番上手いねと母さんに褒められたからか、誰も気付かず、ぼうっと見ているだけ。
炎に照らされた、青か赤か、木や草が黒々と立ち並ぶ。ざわざわと森が嘆き悲しみ、風が苦しみを訴えるのを聞いて、頭が殴られたような気がした。この地は汚されてしまった。ここにいることはもう出来やしない。
ああ、ほら、陽気なミミズクの声も、鹿の愛の歌も、もう聴こえてきはしない。
でも、弔わねば。いたずらに殺され、敬意を祓われることも無かった我が一族、我が家族、我が兄妹を。
ああ、血の匂いがする。近寄って声をかけたいのに。治療をしたいのに。
でも姿を見せれば追われ、殺される。
だけれども、ここで逃げるなんて出来やしない。
怖い、怖い、怖い!
生きるのが、死ぬことが許されないのが!
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