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ぞっとする。ぼくは自分の身勝手な感情で彼を殺してしまうところだった。もう過去のことなのに。ただやるせない気持ちだけが胸に残ってムカムカする。
ああ、でも、怒りはおさまりなんてしない。とても冷静になんて話せる訳がない。彼を見ているだけで体を燃やす真っ黒な炎はくすぶり出す。
仕方がない。このまま戻って寝よう。そうすれば少しは気持ちも落ち着く。さっと後ろ目で見て、着いてきていないことを確認して部屋に戻り寝台に寝転がる。彼が戻って来る前に寝てしまおう。
スリクスは枕元に留まると、ゆっくりとその大きな目を閉じた。
「…ありがと、スリクス。」
グラッドを起こさないように小声で礼を言って自分も瞼を落とす。
あんな話をしたせいで、よい夢を見ることもできやしないだろう。
優しい母の声や一見静かに見えても実は騒がしい森の眺めを夢の中だけでも見たいのに。
どこがで火花が散る音がしたような気がした。
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