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怒り
むかしむかしのお話です。
ある日、始祖は怒り狂いました。それはそれは酷い怒りようで、宥めようとする者は凪ぎ払い、進む方向にあるもの全てを滅ぼしました。
なぜ、穏やかな彼が怒ったのかというと、彼の大切な大切な養い子を傷つけられたからです。それも自分も愛されたいからという酷くわがままな理由で。
もう愛し子は何も見ることはできません。気まぐれな空も愛を唄う小鳥さえも。
どんなに力がある始祖でも傷を癒すことはできても失われたものは取り返すことは許されません。禁忌を破れば世界は狂ってしまうからです。
許せなくて赦せなくて、他の音も景色も目にも入りません。壊して無くして消さなければ、気がすまなかったのです。
彼は天災となりはて人々は嘆き畏れました。触らぬ始祖に祟り無しと言われるようになったのはこの話がきっかけです。
そんな彼を何かが邪魔しました。しつこく付きまとい、何しようと彼から離れることはありません。仕方がなく彼は何が邪魔をしているのか見たのです。
そこにいたのはぼろぼろに傷ついた愛し子でした。
彼は絶望しました。身を焼く怒りのままに愛し子を傷つけてしまったからです。愛し子は耳も聴こえなくなってしまったのです。
彼は愛し子を抱き締めながら哀しみをのせた涙を次々と落としました。愛し子が感じるのは顔に滴る水滴と暖かい体だけ。
始祖は愛し子に二つ力を与えました。
一つは先を見通す力。
目が見えなくても自然に生活できるように。
もう一人は声無き声を聞くことができる力。
音が聞こえなくても周りの様子を知ることができるように。
この力のおかげで愛し子は幸せな一生を送りました。
その力は今でも血により受け継がれています。
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