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仕方がない、仕方がないのだと父さんは言うのだろう。殺されたことでさえ。私達は闇にひたり、血を飲み、夜に紛れる一族だと長老は語った。
報いの火なのだと声高に言う青年はこの惨劇を作り出してなお嗤っている。青年と共に来た兵達は生き残りを探し、殺す。なんの躊躇いもなく。
里を燃やす影は崩れ消えて行き、青年と兵は去っていった。
天は地の傷みに涙を流し、怒りを宥める。
遺されたのは、幼子と焼け跡のみ。森に囲まれた隠れ里は十年も経てば、その跡も消え去り、ここに穏やかな暮らしがあったことも忘れ去られるだろう。永き常磐の緑に混ざり癒されるだろう。
だけどそうならば、この胸に突き刺さる水晶は、何もかもあやふやにし隠す霧は、どうすればいい…?鋭く冴え渡るこの輝石は深い傷をいつまでも与え続け喜びを味わうことはもうできる訳がない。深い迷霧は先の夢を押し隠し、身近な願いを見つけさせはしない。
力はとうに抜けていた。立ち上がることも出来ず、木に寄りかかり目を開けているのかいないのか。息をしていることが心臓が動いているのが信じられない。ただ思うのは自分も共に消え去ること。
飲むことも食べることも忘れ、その意識も安らぎのない闇に溶け込んでいった。
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